用語集
ファンクションジェネレータ(function generator)とは、任意の周波数を持つ様々な電気波形を、電圧信号として出力できる信号発生器です。
一般的には電子機器開発やテスト時の「信号源」として活用されています。
簡潔に説明するとこの通りですが、やや難解なため、当ページでは「ファンクションジェネレータの基礎知識」として、上述の内容を詳細に解説します。またファンクションジェネレータの使い方や、似た用途で使われる任意波形発生器(AWS)との違いについて解説していきます。
電圧に関する計測時の注意点についても解説していきますので、製品選定時や、購入後困った時に参考にしてください。
ファンクションジェネレータの基礎知識として、
ファンクションジェネレータって何?
アプリケーション(用途)
ファンクションジェネレータの波形
ファンクションジェネレータの周波数
の4つを見ていきます。
ファンクションジェネレータは、大きなカテゴリとしては「信号発生器」に分類されます。
ファンクションジェネレータ
任意波形発生器
パルスジェネレーター
デジタルパターンジェネレータ
他、ピッチジェネレータやオーディオジェネレータのような専用アプリケーションに特化したものなど多数。
信号発生器(Signal Generator)は、電子信号を生成する電子機器です。出力される信号は振幅、周波数、波形などの設定がされています。
これらの信号発生器は、様々な特徴を持ち、それぞれの用途で使われています。
特にファンクションジェネレーターは、電子機器のテストや回路の動作確認で用いられます。
動作確認の用途では「波形」や「周波数」を変更した信号を出力する必要があります。
ファンクションジェネレータなら、任意の「波形」と「周波数」を設定した出力信号を生成できます。
ファンクションジェネレータは、電子機器の開発、製造テストの「信号源」として使用されます。
信号源とは字の通り、信号の源、「信号の発生源」です。
ファンクションジェネレータは、任意の周波数・波形を「信号」として出力します。
出力した信号はどこにいくのかというと「テストしたい別の電子機器・電子回路」などに、入力されます。
周波数や波形をコントロールして「正常な信号」を機器に入力してテストを行なったり、歪みや異常のある信号を敢えて入力するといったテストでも使用されます。
このように「外部からの入力信号」によって動作する機器・電子回路には、本来の信号に変わる「別の信号」を入力してテストを行います。
機器・電子回路の内部では信号を作れないケースでは代わりになる信号源が必要なため、ファンクションジェネレーターが活用されます。(もちろん、別の信号発生器の多くも、テストや検証用途で使われています。)
低周波の測定では、様々な波形や周波数の信号を任意で発生させる必要があります。
例えば、アンプの周波数特性を測定するには正弦波信号、過渡応答特性を測定するには方形波など、
何を測定するかによって、適した波形が異なるからです。
ファンクションジェネレータには、基本波形を連続して発生させる機能があります。
また多くのファンクションジェネレータは正弦波の生成に加えて、三角波、のこぎり波、方形波、パルスといった波形を生成できます。
尚、三角波、のこぎり波を一括りで「ランプ波」と呼ぶこともあります。
正弦波
三角波
のこぎり波
方形波・矩形波
パルス
任意波形
注目ポイントは「任意波形」です。任意波形とは、ユーザーが定義した波形を指します。
かつてのファンクションジェネレータでは任意波形は作れませんでしたが、現在では市販のファンクションジェネレータの多くは、任意波形を生成できるタイプです。
ポイントは「DDS方式」の導入です。
DDSとは、ダイレクトデジタルシンセサイザ(Direct Digital Synthesizer)の頭文字の略称で「電子回路」を指します。
*のファンクションジェネレータのほとんどは、出力波形の生成にDDS方式を使用しています。
DDS方式の採用によって、任意波形の生成が可能になりました。
ファンクションジェネレータは、正弦波などの波形をユーザーが設定した周波数で出力することができます。
周波数は1秒当たりに繰り返される波の回数を指します。単位はHz(ヘルツ)で表されます。
1秒あたり、波が3回繰り返す場合は1Hz。
10回繰り返す場合は10Hz。
100回繰り返す場合は100Hz、1000回繰り返す場合は1kHzです。
任意波形発生器(AWS)もまたファンクションジェネレータと同様、電子機器・電子回路のテスト用途で使われます。
類似の用途で使われる製品のため「ファンクションジェネレータとの違い」をこちらで解説します。
「比較」と言っても「どちらが優れている」という優劣をつけるためではなく、あくまで「どう違うか」という部分にフォーカスして比べます。
というのも、ファンクションジェネレータと任意波形発生器は異なる用途で使われるためです。(それぞれに優れている面があっても、用途に適さないケースはありますので優劣の比較は行いません。)
次の比較一覧表は「どちらが皆さんの使いたい用途に適しているか」を考える際の一助としていただければ幸いです。
ファンクションジェネレータ | 任意波形発⽣器 | |
---|---|---|
主な方式 | DDS方式 | AWG方式 |
クロック | 固定 | 可変 |
出力波形の再現性 | 任意波形発生器ほど⾼くはない | 高い |
データに対し⼀部重複・⽋損が⽣じるケースもある | データを忠実に再現する | |
主な用途 | 低周波数での電⼦テスト⽤途 | 厳密な波形制御が求められる電子テスト⽤途 |
価格 | 低価格 | 高価格 |
それでは、各項目について見ていきましょう。尚、関連の深い項目はまとめて解説します。
ファンクションジェネレータと任意波形発生器の大きな違いは「方式の違い」すなわち、信号を出力する仕組み・内部構造の違いにあります。
市販されているファンクションジェネレータの多くは「DDS方式」が採用されています。
対して、一般的な任意波形発生器には「AWS方式」が採用されています。
実はこの方式の違いが、上記一覧表で記載した各項目「出力波形の再現性」や「用途」の違いと大きく関わっています。
DDSは、ダイレクトデジタルシンセサイザ(Direct Digital Synthesizer)の頭文字を取った略称で、DDS方式は、固定周波数クロック基準に基づいて、周波数や位相を調整した信号を生成する手法です。
ポイントは「固定周波数クロック基準に基づいて」という点です。これはDDS方式では「クロックが固定」されているということを意味します。
クロックは、出力波形の周波数と関連があります。
クロック信号(クロックしんごう、clock signal)、クロックパルスあるいはクロックとは、クロック同期設計の論理回路が動作する時に複数の回路間でタイミングを合わせる(同期を取る)ために使用される、電圧が高い状態と低い状態を周期的にとる信号である。
Wikipedia「クロック」より引用(*終閲覧日:2021年5月18日)
ファンクションジェネレータから出力される信号は「周波数」も「波形」も変更できます。
しかし元々のデータとしては、この「クロック」が固定されています。
つまりファンクションジェネレータは「固定のクロックを持つ波長データから設定に応じた周波数・波形の出力信号を作っている」ということ。
簡略化すると、次のような仕組みで出力信号を生成しています。
DDS方式では、あらかじめ「固定のクロックを持つ波長データ」が保存されている。
その波形データから「ユーザーが設定した周波数」に応じて、データを取り出す。この時、ファンクションジェネレーターは自動的に位相の増分を決定しながら波形データを生成する。
生成された波形は、DAC(デジタルアナログコンバーター)で、アナログ波形に変換されて信号として出力される。
一連の作業を、より抽象的に言い換えると「固定されたデータを設定データに近づける作業」と言えます。
固定のデータから設定に合わせてデータを取り出すため、その際には必要に応じてデータを、重複させたり、削ったりしています。
このような仕組みで、ファンクションジェネレータは可変の出力信号を生成しています。「可変」とは言っても、クロックや元の波形データ長は固定されているため「任意波形の生成」には限界があります。
そのため「データ通りの出力」を求めるケースでは「任意波形生成器」が用いられます。
AWGはArbitrary Waveform Generatorの頭文字の略称で、こちらをそのまま和訳すると「任意波形発生器」となります。(ですので、AWGは、厳密には「DDS方式」のように仕組みではなく、仕組みも含めた製品全体を指す言葉と捉えた方が正確でしょう。)
当ページでは、DDS方式と比較しやすくするためにAWG方式(任意波形発生器の方式)と言っています。
任意波形発生器が、信号を出力する仕組みは次の通りです。
PCなどを使用し、波形生成ソフトウェアやツールで「ユーザー設定の出力波形データ」を作成する。
「ユーザー設定の出力波形データ」を任意波形発生器の波形メモリに保存する。
設定された周波数に応じて、波形メモリから、「ユーザー設定の出力波形データ」をクロックサイクルごとに取り出していく。
生成された波形は、DAC(デジタルアナログコンバーター)で、アナログ波形に変換されて信号として出力される。
任意波形発生器は「クロックは可変」です。ファンクションジェネレータではクロックは固定されていましたが、こちらはクロックを含めて変更できます。
「ユーザー設定の波形データをメモリに保存して、そこから取り出していく」という仕組みのため、正確なデータの再現が可能です。